■■6
思い返してみれば、色々あったが平和な音大時代だった。
いつもあんなに、一緒に居たのに。
考えてみれば、今までこうならなかった事の方が不思議なくらいなのだ。
のだめは、千秋が自らのシャツのボタンを一つ二つと緩めるその動作をじっと見つめた。
対して千秋の視線は、手は動かしながらも、一心にのだめに向けられている。
上気した頬と胸の高鳴りはとうてい隠せない。
「…先輩、イジワル、デスよ。のだめにあんなこと言わせて……」
「…自分で言ったんだろ」
千秋は靴を脱がせてやりながら、のだめに覆い被さる。
のだめの言う「あんなこと」が、勝負下着の事なのか恋のレッスンの事なのか、それはわからない。
けれど、今となってはどちらでも構わないことだった。
千秋はゆっくりとのだめに覆いかぶさった。
「ぎゃぼっ!」
場違いのようないつもの叫び声を上げるのだめ。
「先輩、い、痛いです、…ベルト……」
千秋の真鍮製のバックルが、のだめの身体に食い込んでいた。
「あ、悪い……」
千秋は一度身体を起こすと、ベルトを緩めて、抜く。
どんなに疲れてベッドに倒れ込む時も、ベルトは必ず緩めるのに。
…オレ、舞い上がってるのか……?
苦笑しつつ、再びのだめに覆いかぶさる千秋。
「先輩、可愛いデス」
のだめは千秋の目を見つめてふうわりと微笑んだ。
…舞い上がるのも当然、か。
千秋は再びのだめを組み敷き、負担をかけないようバランスを取りながらも、のだめにのしかかる。
■■7
一方のだめは。
千秋の身体が熱い、そう思った。
そのあまりに密な感触に、のだめはそっと目を細める。
千秋の左手はのだめの小さな頭に宛がわれ。
右手は、のだめの頬を優しく撫で……
キス。
そっと唇を離して、また、
キス。
キス。
キス。
キス。
「…んっ……」
眉を寄せて身をよじるのだめ。
しかし、千秋の身体に阻まれてその身は決して自由にはならなかった。
もう、後戻りは、できない。
■■8
優しく、小鳥がついばむようなキスを幾度も。
その度にのだめは、声にならない声を漏らす。
…譜面通りに弾かないめちゃくちゃなピアノ。
それなのに、その余りある才能には幾度も感嘆させられた。
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