のだめは膝から降りようとしたが、千秋の腕がそれを許さなかった。
「のだめ、重いですヨ…降りますから、腕を…」
のだめを抱っこする格好で、千秋のまぶたは再び閉じられていた。
「…センパイ?」
問い掛けても返事は返ってこない。
「…?」
しばしの沈黙。のだめは千秋の顔を覗き込む。
「……まだ?」
痺れを切らしたのは千秋だった。
「へっ?!」
「待ってるんだけど」
「な、何をデスか?」
千秋のまぶたはまだ閉じられたままだ。
「キス、してくれるんじゃないのか?」
「いっ?!」
どがーん、と爆発しそうなほど、のだめは恥ずかしくなった。
「見てたんデスか?!」
…それまでずっと、自分から気持ちをアピールしてきたけれど、いざこういう関係になるとどうしていいのかわからない。
すごくうれしいのに、それがうまく伝えられない。
もどかしくて、せつなくて……大好きで……。
「いっ、イきますよ」
「ん。」
のだめは自分の唇を千秋の唇に押し付けた。
勢いに任せた、幼いキス。
色気もそっけもない、まさに「ぶちゅーー」といった感じの、キス。
千秋がうっすら目を開けると、のだめのぎゅっと閉じられたまぶたが見えた。
その姿がいかにものだめらしくて、愛しくて、千秋はそっと背中をなで上げる。
「ひゃっ……くすぐったいデスよ…」
身をよじって、のだめはキスを解いた。
半分横たわった状態の千秋に覆い被さるようにして、自分からキスをしたというそのシチュエーションに、のだめはいつも以上にどぎまぎしていた。
「…なんだそりゃ。こんなんで俺が満足すると思ってんのか」
「うぎっ……しょうがないじゃないデスか!のだめ、初心者なんですから。…百戦錬磨の先輩とは違うんデス」
のだめは、拗ねたように唇を尖らせた。
「俺がお前にするみたいにしてみろ…ほら…」
肘掛に手をつくことで体を支えていたのだめだったが、不意にひじをつかまれて、千秋の胸に倒れこんだ。
「ふぎゃっ……」
目の前の、千秋の唇。
再び目は閉じられて、少しだけ唇を突き出してのだめを待っている。
引き寄せられるように、今度はやさしく唇を重ねた。
千秋の唇を、自分の唇で挟むようにして柔らかな感触を確かめる。
のだめの舌を誘い込むように千秋の唇は開いていて、けれども自分からは何も仕掛けてはこない。
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