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「ねぇ、ぼくのこと、好き?」
突然尋ねられ、驚いた。 夕霧の君。 世にも名高い、光源氏と呼ばれるお殿様をお父上にもつ、私の従兄弟。 父上が無実の罪で須磨に流されていた間、ここ、私たちのおばあさまである大宮様のお邸で一緒に育った。 私はお父様とお母様が離縁したため、おばあさまに預けられていたのだけれど、そんなお互い淋しい境遇のせいか、歳が近いせいか、私たちはとても気が合った。 夕霧は優しくて、賢くて。遊びも手習いも、夕霧と一緒なら楽しくて瞬く間に時が過ぎた。兄とも弟ともいえる、大切な存在。 お父上が京に戻られたため、夕霧はお父上のお邸に移ったけれど、おばあさまや私が寂しくないようにとしばしば遊びに来てくれていた。 今日も、さっきから一緒に絵巻物など眺めていたのだけれど、今日の夕霧は、来た時からどこか上の空で言葉少なく、菓子にも手をつけなかった。お腹の調子でも良くないのかしらと私は少し心配していたのだ。 「…好きよ?」 そんな事尋ねるなんて、変な夕霧。 小さい頃、結婚の約束もしたほどなのに。もっとも覚えてないかもしれないけれど。 考えていた事が顔に出ていたのだろう。普段声を荒げることなどほとんど無い夕霧が、珍しく苛立たしさを露わにした。 「そうではないよ!…あの、大人の、公達ように、ぼくのことを好きかって」 「夕霧の君?」 「お父様が、ぼくもそろそろ元服だと、そう仰ったんだ。」 元服… 貴族の子息が一人前の男性として世にお披露目される儀式。 親同士で決められた、しかるべき身分の姫が添い臥しとして選ばれる。 下賤な言い方をしてしまえば初夜のお相手で、たいていそのまま妻となる。 小さな頃の約束はともかく、私は夕霧以外の誰かと結婚するなど、その時まで考えたこともなかった。 夕霧の添い臥しは誰なのかしら。 私ではないだろう。 あの光る君の息子の添い臥しですもの。大臣の娘とは言え『雲居の雁』と呼ばれ、一族にはずれ者扱いされている私が選ばれるとは、とても考えられない。 夕霧の出世に役立つ、有力な方の姫君が… きっと美人で、手跡も綺麗で箏も上手で… いろいろな事柄が急に現実味を帯びてきて、思わずほろりと涙がこぼれた。 「ああ、泣かないで。ぼくから、お父様にはちゃんとお願いをするから。」 「だって…」 「どんなに身分の高い姫だって、宮様を賜ると言われたって、断る。ぼくには君だけだから。」 「だって…」 「小さい頃、約束したよね?」 「!!」 「それとも君は、ぼくが他の姫を妻にしてもいいの?そして君も、誰か他の公達の妻になるの?ぼくは、そんなのは嫌だ!」 PR |
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