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【2025/07/18 21:40 】 |
ヘタレ千秋:1
■1
「のだめのことは、放っておいていいデスから!!」
そう言われ、のだめの部屋から追い出された千秋は、背後で「お疲れー」「お帰り」と声をかけるターニャとフランクにも気づかず、隣の自分の部屋へと引き返した。
いったい何が起きたというのか……。
しばらく千秋自身にもわからなかった。けれども、自分が何かとてつもなく打ちのめされたような感覚だけは、心に渦巻いた。
ジャケットを脱ぎ、無造作にベッドへと投げる。
散らかっているとばかり思っていた部屋は、4ヶ月前に千秋が掃除したばかりと見まごうばかりに隅々まで清掃が行き届いている。
『的外れなことばっかり!!』
的外れ……?……俺が?
『だからー、そのへんちゃんと分けろといってるの』
━━━━分ける?何を?
━━━━そのへん?……いったいどのへん?
何かにとてもショックを受けている自分がいた。
いったい何に?
━━━━あののだめにキスしてしまった自分?
━━━━それとも、のだめに拒否された自分?
一気にどっと疲れが押し寄せて、千秋は倒れこむように体をベッドに預けた。
■2
肌寒さに目を覚ますと、部屋は暗闇に包まれていた。
どうやら、そのまま寝入ってしまったようだ。
気だるく寝返りを打つと、薄明かりの中に衣擦れの音が響く。
窓辺からかすかに町並みの明かりが見て取れた。
一つ大きくあくびをしてベッドサイドに目をやると、時計が日付の変わった事を示していた。
泥のように重い体を起こして、クローゼットからスウェットを出して着替える。
時差のせいか。
あるいは別の理由か。
すっきりしない意識で、千秋は部屋を出た。
隣ののだめの部屋をあえて見ず、階段を静かに駆け下りた。
ロビーを抜け中庭に出ると、晩秋の風が首筋を通り抜けていく。
その冷たさに千秋は首をすくませ、スウェットの襟を立てた。
通りの角を曲がった先に、テイクアウトのできるカフェがある。
何度かのだめを連れて行った事もある。まだ、この時間なら営業しているはずだ。
千秋は少し歩幅を強めた。■ヘタレ千秋3
適当にサンドイッチを見繕って、千秋は店を後にした。
このあたりは、午前を回っても比較的賑やかで、かといって治安が悪いわけではなく、
家庭的なレストランやカフェなとが軒を連ねている。
本当だったら━━━━
本当だったらのだめを連れ出して食事にでも行くつもりだった。
演奏旅行で経験したこと。
シュトレーゼマンが相変わらずだった事。
そのトラブルで、自分が代役に立ったときの事。
Ruiのピアノの事。
エリーゼのせいで、予定が1ヶ月も延びた事。
……話してやりたいことがいっぱいあった。
なれない生活の中にのだめを置き去りにしていったことが、この4ヶ月の間ずっと気がかりだった。
のだめはあんな調子だから、ここのアパートの住人たちとも仲良くやっていけるだろうが、自分と離れ暮らすことを淋しく思うだろう、と思っていた。
自室の鍵を渡しておいたのは、ここにいることで少しでも淋しさがまぎれれば、と思ったからだ。
そう思い込んでいた。
そうであるのだと自惚れていた。
なのに。
階段を上がり、のだめの部屋の前で思わず足を止める。
もう寝ただろうか。
それともまだ……
ドアの向こうは静寂で、なんの物音も聞こえない。
ドアをノックしようとしたけれどどうしてもそうできずに、千秋は伸ばした手を下ろした。

■4
2本目のワインを飲み干した後で、千秋は怠惰にベッドを軋ませた。
ツアーから帰ってきて、荷ほどきもしていない。洗濯物も、たまっているのに……。
だけれども何もしたくない。今は、ただ何もしたくない。
煙草に火をつけて、深く、ゆっくりと煙を吐き出す。
煙草の燃えるチリチリという音が、静かな部屋にやけに響く。
ふと、自分の乾いた唇にそっと指で触れた。
数時間前の、あの柔らかな感触を思い出す。
知っているようなつもりでいたけれど、まだ自分の知らないのだめの部分。
舌をそっと差し入れたとき、一瞬体を強ばらせた。
……そんなのだめを愛しいと思った。
愛しい?
愛しいだって?
そんな馬鹿な!!
のだめにキスしたのは……
━━━━ピアノを弾き続けようとするのだめを制止するため?━━━━今までのようにただうっかり?
いや、違う。
ずっと気づいてた。
気づいていたけれど……ただ今まで、認めたくなかっただけだ。
「馬鹿は俺か……」

■5
うとうとしたまま熟睡できず、明け方早くにベッドを抜け出した。
熱いシャワーを浴び、スーツケースから洗濯物を取り出し洗濯機にかける。
窓の外では町の人々がそれぞれに挨拶を交わし、どこからか鳥がやってきては囀りはじめる。
濃く入れたコーヒーをすすり、煙草に火をつけた。
ふと、目に入った楽譜を棚から取り出す。眠りの森の美女のパヴァーヌ。
ピアノの前に座り、一音一音、確かめるようにすくい上げていく。
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【2011/06/28 11:05 】 | その他 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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