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【2025/07/18 23:41 】 |
変態の森へ:1
パリへ帰ってきて1週間が経つ。
8時には起きて街を軽く走り、シャワーを浴びた後で朝食をとる。
エスプレッソとラッキーストライクを傍らに、デビュー公演でやる曲の総譜をチェック。
オケと合わせた翌日は、練習での反省も踏まえ、改めて自分の音楽をどう響かせるかを考える。
イメージを構築し、感情を奮い立たせ、どう作り上げていくか。時間はあまり無い。……そんな忙しさに、今は多少の安堵を覚えていた。
あれからのだめには会っていない。
時折あのピアノの音が聞こえて、何とも言えない気持ちになったりもする。
けれど、どう切り出していいのかわかりかねて、無意識に避けようとしている自分がいる。
……千秋はアパートの階段を上がり、フランクの部屋のドアをノックした。「あ、千秋……どうしたの?」
「デビューコンサートのチケットが来たから、渡そうと思って」
「ええっ、くれるのー?!」
「ハーイ、千秋」
「……ちょうど良かった。ターニャ、君にも」
「うわー、メルシー!…うれしーぃ。絶対行くから」
「じゃ、また」
「あ、千秋…のだめには…?チケット、渡した?……私から、渡しておこうか?」
「……自分で渡すよ。…じゃ」
1階に戻ってきても、部屋にのだめの気配はなかった。
直接、会って渡すか?……いや、やめておこう。今は、まだ……。
ドアの向こうの静寂が、やけに寒々しく心にしみる。
ドアノブに触れてみても、ぬくもりはそこにあるはずもなくて……。
千秋は封筒にチケットを入れ、のだめの部屋のドアに挟むと自分の部屋へ踵を返した。
薄暗い部屋に風が通り、奥のカーテンを揺らす。
ピアノの前に座ると総譜を開き、チェックした部分をもう一度さらっていく。
……何もなかったように、あのドアを開けてのだめが入ってきたら。
いつもの、今までと同じように。
そうしたら、俺は……。
デビュー公演まで、あと10日。


沸き上がるスタンディング・オベーション。
こだまする「ブラヴォー!!」の感嘆の声。
顔が火照り、早くなった鼓動はさらに加速する。
「デビューおめでとう!」
「おめでとう!!」
「チアキ、おめー!」
鳴りやまない拍手を背にして舞台袖へと戻ると、心地よい汗が額を伝う。
デビューしたんだ。
指揮者としての第一歩を、今踏みしめている。……海外へ渡る事すら出来なかったこの自分が、今パリで、この場所に立っている。
夢のようだ。

……のだめに出会わなければ、こんな事になっていなかったのかもしれない。
あいつ、来ているだろうか。
聞いたかな、俺の音楽を……。
喜んでくれているだろうか。
「おめでとう!」
「メルシー」
楽屋への階段を下り、受け取ったタオルで汗を拭う。「おめでとうございます」
「え……」
千秋はその聞き慣れた声に顔を向けた。
「あの……サインください」
そこに、いた。
「一番でス」
鼻息荒く、ノートを差し出す。
「おまえ……早すぎ!!」
「ステージ出てくださーい」

1度目の挨拶の為ステージに再び立ち、戻ると、千秋はのだめの頭に汗を拭いたタオルを乗せた。
「す……すみません」
あきれた顔で、のだめの手からペンを取る。
全く……何を考えてる、こいつ。
「あの……それから」
千秋はキャップを取り、ノートへサインを走らせた。
「先輩このまえ、キス……しましたよね?」
「……」
「よく記憶に残ってないんで、もう一度お願いしマス」
のだめはそう言うと、目を閉じてねだるように唇を尖らせた。
千秋はその頬に、黙ったままぐるぐると落書きをたっぷりとしてやった。
「ステージ出てくださーい!早く早くー」

……『よく記憶に残ってない』だと?あのやろー、ふざけやがって。拒んだのはお前だろ。
再びステージに立ち、割れんばかりの歓声に答える。なんであんな、いつも通りに……あいつ、やっぱり馬鹿だ。アホすぎる。
そう思いながら、千秋は顔がゆるんでしまう。
あんまりに馬鹿で、どうしようもない程アホで……。
でも、そんなのだめが、そう、俺はのだめが……
階段を下りると、正面楽屋前にのだめを見つける。
愛しい。……愛しくって仕方がない。
顔を上げたのだめが声を発するより早く、千秋はのだめをその腕の中に強く強く抱きしめた。
今なら、素直に認める。
自分はのだめのピアノに惹かれつつ、本当はとっくにのだめに惚れていたのだという事を。
「せ……センパイ……はうぅ……」
もう、こいつを離したくない。きっともう離れられない。千秋は腕を緩めて、のだめの顔を見つめる。
うっとりと上気した頬に、落書きしたぐるぐるが不似合いで、思わず笑ってしまう。
「……ヒドイです!こんな落書きするなんてーー!!」
「ハハハ……来いよ。落としてやる」

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【2011/06/28 11:13 】 | その他 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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