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【2025/07/19 00:34 】 |
嫉妬:2
「はああぁぁ……」
「どーかしましたか?先輩」
「え……いや、なんでもない……」
「飛行機慣れたみたいですねー。よかったデスね!」
「……慣れねーよ、まだ」
「うきゅ……まだデスか」
いつも通りの会話を交わす。

……初めて抱き合った日から、もう3ヶ月もたつ。
幾度となく体を重ねてきたものの、甘い時間を過ごすのは二人きりでどちらかの部屋にいるときだけ。
外で、誰かの目のあるときは今まで通りの状態を保っている。
『恋人同士です』と言わんばかりの恋におぼれたバカップルの真似のような事を、のだめはしたがった事もあったが、今更そんな事も出来もしなかったし、なにより千秋の性質がそれを許さなかった。
恋に溺れるなんて、愚かな事。
そういう考えが、どこかにあった。

「……なんだ、お前。口紅塗ってんのか」
のだめの唇がきらりと光るのを見て取ると、窓の外を見ていたのだめの顎を掴んでこちらを向かせた。
「グロスですヨー。この間買ったんです。キスキスグロスって言うんです」
似合いますかー、と唇を突き出してみせる。
千秋の良く知る、ぷっくりとマシュマロのような感触の唇が、ピンク色に色づいて艶々と光っている。
それは誘うように艶やかで……
「ふん!……のだめのくせに色気づきやがって!!」
千秋はすぐにでもその唇を堪能したかったがその衝動を抑え、代わりにのだめのおでこをぺしっと叩いた。
「ぎゃぼーーひどいデスー!」

シュトレーゼマンがああ言ったのは、きっとグロスを付けているせいだったのだろう、と千秋は心の中で結論づけた。
「先輩のためにつけたんですヨー。熱烈にキスしてくれるかな、と思って……先輩、グロスは嫌いデスか?」
拗ねたように頬を膨らませて、またのだめは窓の外へ目を向けた。
「大好きな先輩に一ヶ月ぶりに会えるから、おしゃれして来たのに……」
ちくりと胸が痛んで、千秋は悪かった、と謝った。

のだめに出会って、あのピアノの連弾を終えたときだったか。
あれからのだめには事あるごとに、思いをぶつけられてきた。
うっとうしいだけだったものが、今では快く優越感を刺激して、甘く心を満たす。
そうなのだ。
のだめは、誰よりも自分を愛しているはず。
この、俺を。
そういう慢心が少なからずとも千秋の中にはあった。

「のだめ、お腹ペコペコですー。何か食べに行きましょ、先輩」
「そうだな。俺も飛行機に乗るために朝から何も食べてないんだ。一段落したらカフェに行こう」
「ぎゃはぁ、賛成!」
「…ところでお前、俺の部屋汚してないだろうな?」
「もちろんデス!!のだめ、がんばりました!!」

自室のドアを開けると、一ヶ月前自分が出かけて行った時の状態が保たれていた。
「へえ。綺麗じゃん…」
えっへん、とのだめは誇らしげに胸を張る。
「まさかこういうところに全部突っ込んでないよな?」
黒のロングコートを脱ぎながら、千秋はクローゼットを空けた。
中はきちんと整理整頓されたままだ。
「ぎゃぼ…!ひどいですネ。よく見てくださいヨ、ほらほら!」
続きの部屋へとのだめに引っ張られ、千秋は驚いた。
保たれているどころか、ダイニングテーブルには色鮮やかな切花が、窓辺には可憐な花を咲かせた鉢植えが置かれている。
「どーしたんだ、これ?」
「綺麗ですよねー。通りの花屋さんのお兄さんが、いつものだめに、ってくれるんですヨ」
「はあ~?なんで……」
「さあ、どうしてでしょうね?……それより、先輩……」
のだめは千秋の腕に、自分の腕をそっと絡ませた。
「一ヶ月ぶりなのに、まだキスしてくれないんですか?もう、誰も見てませんよ……」
いたずらっぽく千秋の顔を覗き込み、ふっくらとバラ色に染まった頬で囁いた。
その囁きに誘われるように、千秋はのだめに顔を近づけていく。

キス。

さっきからずっと待っていた、柔らかな唇。
甘い甘い、ヴァニラの香り。

腰に腕を回して軽く抱きしめると、そのうれしさにのだめは鼻を鳴らし、腕を千秋の首に優しく絡めていく。
ちゅっと音を立てて、唇を離した。
「……おかえりなさい」
「……ただいま」
片方の手でのだめの柔らかな頬を愛しげに撫でる。
もう一度深く……
「RRRRRR……RRRRRR……」
……不意な電話のベルに中断される。
あからさまな不機嫌顔で、千秋はのだめから離れて受話器を手に取った。
コンクール事務局からの電話に、千秋はバッグからシステム手帳を取り出し、スケジュールの確認をし始めた。
コンクール優勝者に与えられる一年間のプロモーション期間。
昨年のパリデビューの公演で成功を収めてから、ありがたいことにいくつかの楽団からオファーが来ている、という。
どうやら、この電話は長引きそうだ……。

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【2011/06/28 16:20 】 | 千秋×のだめ | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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