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【2025/07/19 03:58 】 |
嫉妬:3
千秋は荷物を解き始めたのだめを手招きし、手帳の端にペンを走らせた。
"長引きそうだから先に行ってて"
のだめは頷いて千秋の手からペンを取り、その下にこう書いた。
"早く着てくださいネ"
語尾に、かわいらしくハートが踊る。
そうしてペンを千秋の手に戻すと、のだめは千秋の肩に手をかけて精一杯背伸びをし、頬にキスをした。
千秋は受話器の向こうの人間と話を続けながら、口の端を緩めて頷いた。

ようやく受話器を置いた頃には、既に30分が経っていた。
千秋はとりあえず荷物の中からランドリー袋を取り出し、中身を洗濯機に入れスイッチを入れた。
ジャケットを脱いでVネックのセーターを着ると、クローゼットからピーコートを取り出し、羽織りながら部屋を出た。

外はもうとっぷりと日が暮れて、冷たい風が頬を刺すようだ。
のだめのことだから、腹をくうくうと鳴らせて待っている事だろう。
その姿が目に見えるようで、千秋は苦笑した。
自然と足早になる。

交差点で足を止められ、向かいの角のカフェに目をやると、窓際にのだめを見つけた。
頬杖をついて、カフェオレをスプーンでかき混ぜている。
その時、千秋の心臓はどきっ、と一瞬大きく波打った。

唇に薄く微笑みを湛えて目を伏せたその横顔は、はっとするほど綺麗で、千秋の知らない別人のようだったから。

……いつの間に、あんな表情をするようになったんだろう。

自分の知らない間に、のだめが綺麗になっていってしまうようで、焦りにもにた感情が胸を占める。

ぼんやりと見つめていると、見知らぬ男がのだめに声を掛けているようだった。
ずうずうしくも隣の席に腰掛け、必要以上に顔を近づけて、何かを話し掛けている。
……ナンパされているようだ。
のだめは首を横に振りながら、必死に断っている様子だったが、いつのまにか手を握られている。
「あのヤロー……」
千秋はイライラしながら交差点を足早に渡った。
「俺の連れに何か用か?」
のだめの髪に触れようとしていた無骨な手を払いのける。
見知らぬのその男を見下ろし、にらみつけて威嚇する。
「あっ、先輩!遅いですよーー」
「おい、出るぞ」
カフェオレの代金をテーブルにたたきつけるように置き、千秋はのだめの腕を取った。
「えっ、あっ……ちょっと、先輩……?」
半ば強引に引っ張るようにして店を出る。

千秋は何も言わず、自分の歩幅で歩いていってしまうので、のだめは腕を取られたまま小走りで後をついていく。
「……先輩……先輩ってば……」
背中が、怒りに満ちている。のだめにはそれがわかった。が、のだめには理由がわからない。
「何、怒ってるんですかーもーー……ぎゃぶっ!」
千秋が急に立ち止まるので、のだめは勢い余って背中に突っ込んでしまう。
「なんなんですか、もーー!!痛いデスよ!!」
「おまえ、なんなんだよ」
「なんなんだよ、って何の事デスか?」
「見ず知らずの男に手なんか握られて……隙がありすぎるのもいい加減にしろよ!」
「……あの人、花屋のお兄さんですよ?……カフェで会ったから話してただけじゃないですか!」
「……ちょっと知ってるからって、手も髪も触らせるのか、お前は」
俺以外の、別の男に。
「指が長いね、って言われてただけだし、今度お店に来てくれたらまたお花いっぱいあげるヨ、って……」
「下心見え見えじゃねーか、そいつ」
心がざわついて、頭が整理できない。
「ピエールはそんな人じゃありません!!」

胃のあたりで何かが渦巻いていて、むかむかして仕方がない。
「ふぅん……ピエールね……お前の貞操観念がどんなもんかわかったよ。モノくれるやつなら誰でもいいんだな」
違う、こんな事を言いたいんじゃない。
「峰にもあっさりなついてたし。俺のいない間に、別の男と何してたかわかったもんじゃな……」
びしゃり、と乾いた音が千秋の左頬に響いた。

「いってぇ……何すんだよ!」
「……ヒドイ……ヒドイです、先輩……」
瞳からは大粒の涙がいくつもいくつも溢れ、頬をいっぱいに濡らしてのだめはしゃくり上げる。
「いつもいつも、のだめ……ヒック、先輩の事、大好きで……ヒック、先輩の事だけ、いっぱい……」
「お、おい……そんなに泣くなよ……」
人目を気にして、千秋は泣きじゃくるのだめを宥めようと、腕を伸ばして抱きしめかけた。
「イヤ……!!」
伸ばした腕を払いのけ、のだめは強く千秋を拒否した。
「……嫌いデス、そんな先輩、ヒック、……大嫌いデス…………!」
その言い残して、のだめは背を向けて走っていってしまう。

千秋は引き留める事も追いかける事も出来ずに、しばらくただ呆然と立ちつくしていた。

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【2011/06/28 17:23 】 | 千秋×のだめ | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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