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【2025/07/19 01:10 】 |
嫉妬:4
ずいぶんと遠回りをして、千秋はアパートへ帰ってきた。
途中で買ったウイスキーの小瓶は、すでに飲み干してしまった。
どれだけ飲んでも酔えそうにない。
だから、それ以上飲むのはやめた。
涙いっぱいののだめの顔、カフェの窓越しに見たのだめの顔、キスをせがんだのだめの顔。
そんなのだめの顔が交互に浮かんでは、千秋を苦しめた。

……あんなに泣かせてしまった。
……あんな事、言うつもりじゃなかった。
ただ、どうにも苦々しい気持ちが溢れて、自分でも我を忘れるほど、むかついて……

そう、嫉妬したんだ。
自分が離れている間に自分の知らない顔が出来るようになって、そんな風に綺麗になっていくのだめを、どこかで見つめているやつがいる。
そう考えると、どうにも我慢が出来なかった。
のだめに触れるのは、自分だけでありたい。他の誰かになんか、指一本だって触れさせたくない。
髪の先から、爪の先まで、自分だけのものにしておきたい。
…これほどまでの独占欲が自分の中にあった事実をわからされ、千秋は愕然とする。

『追いかけられるのに安心してると、いつの間にか追い越されますよ』
『捕まえておかないと、横から奪われますよ』

……今なら、シュトレーゼマンの言っていた事が良く理解できる。

のだめがいつでもストレートにぶつけていてくれた自分への気持ちに、安寧と胡座をかき続けてきた罰だ。
捕まえたようで、捕まっていたのは……自分の方だ。

部屋に入ると、冷えた指先でのだめの部屋の電話番号を押した。

「……はい」
5コール待って、のだめが電話に出た。
「のだめ……」
呼びかけてものだめは無言のままでいる。
「切らないでくれ。……そのまま聞いて欲しい」
千秋は言葉を続けた。
「さっきは悪かった。ゴメン……。勢いであんなヒドイ事言ったけど……本心じゃない。
 お前の事を信用してない訳じゃない。……それだけは、わかって欲しい」

言葉を選びながら、慎重に、千秋は自分の気持ちを吐露していった。
「……パリを離れる時、いつも不安に感じてる。俺が知らない間にお前が変わっていくのを、そばで見られないのを歯がゆく思ってる。本当は気づいてた。……お前、綺麗になった。だからなおさら……。あんなの見て、動揺したよ。誰にも触れさせたくない。嫉妬したんだ………」
心の中で、のだめの名前を狂おしく呼び続ける自分がいる。
「お前を失いたくない……」

こんなにも、恋に溺れきって……今は愚かな、ただの男だ。
「……お前を、愛してる」
受話器の向こうはずっと静かなままだった。
喧嘩する為に、パリへ戻ってきたわけじゃないのに……。
「…じゃあ、おやすみ」
のだめが何か言ってくれるのを待っていたが、受話器の向こうは無音だった。

名残惜しく受話器を耳から離した時、玄関のドアの開く音がした。
勢いよく部屋に入ってきたのだめは、一直線に千秋へ駆け寄り、抱きつき、涙でぐちゃぐちゃの顔をその広い胸にうずめた。
「のだめ……?!」
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、といいながら、まるで子供のようにしゃくりあげる。
「何でお前が謝るんだよ…悪いのは俺だぞ」
「…ぶったりして、ゴメンナサイ……」
「そうされてもしょうがないくらいひどいことを言ったよ」
のだめはぶんぶんと頭を横に振った。
「……嫌いなんて嘘デス…大好きです……」
嗚咽に震える肩を、千秋は優しく抱きしめた。
「うん…ごめんな……」
シャンプーの香りのする洗い立ての髪に、千秋は何度も口付けた。
愛しくて、ただ愛しくて。
「大好きなのは、先輩だけです。…ほんとデス……」
溢れてとまらないのだめの涙を、千秋は唇でぬぐっていく。そうして、柔らかな唇へとたどり着く。
優しく触れた後で、口全体で吸い込むようにのだめの唇を包み込み、自分の唇でのだめの唇のやわらかさを堪能する。
「…愛してる」
その言葉はまるで魔法のようで、先ほどの苦々しく渦巻いた感情は嘘のように消し去り、千秋の心の中をひたひたと暖かなもので満たしていく。
「頼むから、俺の知らないところで綺麗になっていかないでくれ…。こんなに自分が嫉妬深いとは思わなかったよ……格好わりーな、俺。余裕無くて……」
「もし、…もしものだめに変わったところがあったとしたら…それは全部先輩のせいですヨ……。だって、のだめはもう、この先ずっと先輩だけのものなんですから…」
のだめは千秋の腰に腕を回し、子猫が甘えるように身体を擦り寄せる。

「それに……どんな先輩でも、わたしは先輩のことが大好きデス……。
 ヤキモチ焼きの先輩も、ちょっとカコ悪い先輩も。ずっとずっと前から、愛してマス……」

千秋を見上げるのだめ顔は、睫に涙が滲んではいるものの、もう既に泣き顔ではなかった。

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【2011/06/28 17:28 】 | 千秋×のだめ | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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