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【2025/07/19 04:16 】 |
嫉妬:9
……黒のロングコートを羽織り、皮の手袋をはめる。
そして、千秋はのだめの置き手紙を丁寧に畳むと、ジャケットの胸ポケットにしまい込んだ。
「さて、行くか」


「……フーン」
空港でシュトレーゼマンに会うなり、二日前のだめに向けたそのいやらしい視線が、今度は千秋へ向けられた。
「何ですか……?」
また、何か見透かされてるのか?
「すっきりした顔しちゃって……随分とお楽しみだったわけデスカ。ぷぷ」
「なっ……!」
「若いですねー、ほーんと、のだめちゃんも、千秋も」
「……からかわないでくださいよ。結構、いっぱいいっぱいなんですから」
千秋は真っ赤になって答えた。
「ま、いっぱい悩む事ですネ。……音楽も、恋も。……おー、のだめちゃん来ましたヨー」
振り返ると、のだめがちょうどロビーに入ってくるところだった。
サーモンピンクのニットワンピースが、のだめの白い肌に似合っている。
フィット感のあるニットは体のラインを強調して、幾分かのだめをセクシーに見せていた。
「…………」
千秋はぼんやりとそれを見つめていた。
「ほーらね。私の言ったとおり……」
ほんとに、出会った頃に比べると信じられないくらいに綺麗になった。
「センパーイ!!ミルヒー!」
こちらに気づくと、のだめは手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。
迎えに来たときと同じように、ピンク色のグロスが唇を彩っている。「はー、良かった、間に合いましたー」
「のだめちゃん、その服とっても素敵デスよー」
「そーデスかー?少しは大人っぽく見えますかね?」
「とってもセクシーです。……千秋もね、今うっとり見とれてましたヨ」
「えー?ほんとですカー?」

「…!!何言って……-ほら、もう行きますよ!!」
千秋はろくにのだめを見ずに、シュトレーゼマンの荷物を取ってスタスタと歩き出してしまう。
「……まったく、素直じゃないネー」

「のだめちゃん、またね。今度、私のうちに遊びにいらっしゃい」
「はい、ゼヒ!……おいしい物ごちそうしてくだサイねー」
欧米式に頬を合わせて、のだめとシュトレーゼマンは別れの挨拶をする。
「部屋、汚すなよ」「わかってマス!……ピアノも、がんばりまス!」
敬礼をして、のだめはそう答える。その口元がちょっとだけ寂しそうで、千秋は胸が痛んだ。
「じゃ、行って来る」
いつもそうするように、千秋はのだめの頬をはじいた。
「行ってらっしゃーい」
そう見送るのだめの顔は、笑いながら、だけど泣き出しそうな顔だった。

……二人はのだめと別れ、搭乗者ゲートに向かう。たったの一週間。たった、それだけ。そう自分に納得させる。
が、裏腹に足が動いていた。
「…ちょっと、千秋?!」
「そこで待っててください!!」
振り返りながらそう言うと、千秋は駆け出した。
のだめを追いかけ、その背中を見つける。
「のだめ!!」
「えっ?!センパ……」
振り返ったその手を取り、抱きしめながら口づけた。
バニラの香りが広がる、一瞬の甘い口づけに酔いそうになる。
出来る事なら、このままつれて、そばに置いておきたい。自分だけの物に、誰の目にもさらすことなく。
「センパイ……」
でも、それは出来ない願いだと言う事を、千秋は重々わかっている。「一週間で帰ってきたら、後はしばらくこっちにいられるから……」
いつからか、気づいていた。
一人の女として、のだめをつなぎ止めたい自分と、ピアニストとしてのだめに羽ばたいて欲しい自分とがいる。
……いつか、羽ばたいてしまっても、自分の所に帰って欲しいと願うのは、エゴだろうか。
「……ハイ。待ってマス……」
もう一度、キスをした。今度は、少しだけ深く、長く。
「飛行機、頑張ってくださいネ」
名残惜しく搭乗者ゲートへ向かう二人の手は、しっかりと絡められていた。
「うん。……お前がお守りくれたから、多分大丈夫」
そう言うと、優しく微笑んで千秋は胸元に手を添えた。
「お守り?……そんなのあげましたっけ?」
「……じゃあな」
「行ってらっしゃーい」
今度は、いつもの笑顔が千秋を見送った。

搭乗ゲートの向こうでは、やっぱりシュトレーゼマンがニヤニヤしていたが、そんな事はもうどうでも良かった。
「あらー、千秋。口紅がついてますヨ~」
「フン!もう何とでも言えばいいですよ……」
唇を舐めると、再びバニラの香りが口の中に広がった。
それは、のだめの唇の余韻を感じさせ、千秋の心を甘い思いでいっぱいに満たしていく。……羽ばたいてしまったら、また捕まえに行けばいい。
どんなに逃げていっても、絶対に捕まえてやる。
「じゃ、また一週間頑張りましょう。楽しい音楽の時間ですヨ」
「……よろしくお願いします!」
千秋は再び、機上の人となった。

━━━━━終わり

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【2011/06/28 19:11 】 | 千秋×のだめ | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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