「のだめ、何か冷やすもの取ってきマス……」
しかし千秋は、立ち上がりかけたのだめの腕を取った。
「あー…、もういいから、お前はここにいろ。…ったく……」
労わりと申し訳なさが同居したような複雑な表情ののだめは、しゅんとなって正座してしまう。
「…ったく、お前は……。アホで変態で……可愛いんだからな…」
「…へ?」
途端に声が上擦ってしまったのだめに、
少し赤くなった顎を痛そうに撫でる千秋は、呆れたように、しかし可笑しそうに微笑む。
「折角オレ様が、やっとソノ気になったっていうのに殴るし…」
「そ、ソノ木って何の木デスか先輩……」
再び頬を染めたのだめは、千秋の言う意味を想像して、つい語尾が小さくなってしまう。
千秋はちょっとバツの悪そうな顔で、のだめから視線を外しながら言った。
「言っとくけど、今夜はお前、隣の部屋帰したくないからな」
■■4
「今夜…ず、っと…デスか……?」
言いつつ、その意味がなんとなくわかってしまって、けれどわかってはいけないような気がして。
真っ赤に染まる頬を背けてしまうのだめ。
初めてキスした日から約2ヶ月。
今までも、こんな雰囲気になったことは幾度かあった。
けれど、お互いに生活が忙しい上、
今更どう仕切り直したらいいのかわからない気恥ずかしさもあって、
なんとなくタイミングを逃してしまっていた。
加えてのだめは今まであれだけモーションをかけていたにもかかわらず、いざその時が来るとなると必死に避けるばかりだったのだ。
と。
ふいに、千秋の指先がのだめの前髪に伸びた。
「ひぃぃッ!」
「…オレは強姦魔か…………」
蒼い顔をして叫ぶのだめに、千秋は肩を落とすが。
それでも優しく梳いてやると、柔らかな毛先がさらさらと零れてゆく。
のだめは身体を震わせ、ぎゅっと目を瞑った。
のだめの大きくも細い指は、膝の上で強く握り締められていて。
肩は、微かに上下している。
「…そんなに固くなるなよ……」
苦笑する千秋。
…いや、固くなってるのはもしかしてオレの方かも。
■■5
千秋は、のだめの頭を撫でてやる。
のだめはその感触に溶かされるような心地で、千秋を見ることができない。
無理矢理笑顔を作るが、身体の震えは解けない。
決してイヤではないのに。
のだめは浅く息を繰り返した。何かを喋ろうとするが、言葉が出ない。
「のだめ、目開けろよ」
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