そうして咄嗟に、伸ばされていた両脚を引き戻して体育座りのような格好となる。
「…おい、手と脚、ジャマ」
千秋がどうしても荒くなってしまう息遣いをなんとか隠しながら言うと、
のだめは真っ赤に染まった頬で目を瞑ったまま、ただブンブンと首を横に振る。
「ダ、ダメです、せ…先輩がいやらしい……」
「いやらしいだあ…?!」
…オレは男の本能のままに動いただけだ。
そうかオレはエロいのか。そうかもしれない。
だがその気にさせたのだめが悪いのだ。そうだそうに違いない。
「というわけでお前が悪い」
「ぎゃぼ?!」
のだめは理解不能のまま眉間に皺を寄せて抗議するが。
「……気持ち良くは…なかった?」
また唐突に甘い声色に戻り、千秋は、のだめの耳元で優しく訊ねた。
その髪を幾度も撫でながら。
敏感な耳に千秋の熱い吐息と甘いささやきが心地良くて、のだめはふと気が遠くなるような気がした。
「……よく、わかんないデス。変な気持ち……」
口をとがらせて目を伏せるのだめ。
「変?どんな風に?」
「わかんないです……。でも、先輩の掌が大きくて、ドキドキしまシタ……」
そのままのろのろと視線を上げ、千秋の瞳を見つめるのだめ。
千秋は、ゴクリと喉を鳴らした。
そして、ゆっくりと、言う。
「ドキドキしたんだな、のだめ?」
「…………。」
のだめは無言で頷くと、再び顔を伏せてしまった。恥ずかしさで耳まで真っ赤になってしまう。
「変な気持ちの正体、教えてやるよ」
■■13
その言葉に今までにはない慈しみが含まれていることに気付き、のだめは無意識の内に千秋から逃げようと僅かに身体を背けかけた。
しかし、それを押さえ込むかのように、千秋はのだめの手を固く握り締める。
「それともオレじゃいやか……?」
弱気な、小さな声の問いかけだった。
のだめはその千秋らしからぬ問いかけに少し驚き、千秋を見つめる。
千秋の瞳は、まるで背を向けた母親にすがるような小さな子供の頼りなさに満ちていた。
「お前がいやなら、しない。…いつまで我慢できるかは、わからないけど」
千秋は欲求を最大限に抑え、のだめの瞳を覗き込んで、その真意を探ろうとした。
なぜなら、小さく膝を抱えるのだめが、あまりにも愛らしくて。
羽をもいでしまうには、痛々しすぎて。
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