舌を絡ませれば、逃げようとする。その舌を追い、開かせ、擦り付ける。
そっと歯列をなぞると、面白いようにのだめの腰が引ける。
その腰をぐいと引き寄せて、口内をあますことなく犯してゆく。
堪えきれずに上がる鼻にかかった声が、千秋の頭に直接響く。
千秋は、のだめの唇を貪りながらそっと目を開けた。
のだめは苦しそうに顔をしかめ、頬を染めたまま上向きになり、
口は千秋のなすがままにされ、唇もろとも口内を犯されて為す術もない。
両脚は力なく放り出され、手は、片方は床に。
もう片方は、…千秋の背に必死にしがみついていた。
……なんて、愛らしい……。
千秋は言いようのない高揚感に背中を押されていた。
唇を相変わらず激しく求めつつも、その顔に目を戻すと。
……視線が交錯した。
■■16
熱に浮かされたようなのだめの瞳が、千秋の瞳をはっきりと捕らえる。
そうしてそのまま一時見つめあったが……
千秋が唇を離すと、その衝撃で、また閉じられた。
「…っん、…は、はぁ……ぁ…………」
千秋の腕を握り締めたまま肩で息をつくのだめ。
千秋も、もう荒い息遣いを隠せない。
千秋は、のだめをその胸に抱きしめた。
優しく、まるで生まれたばかりの雛を扱うように。
のだめはそっと千秋の胸にもたれ、目を閉じた。
暫くはそうして二人、身体を寄せ合いながら余韻に浸っていた。
「…のだめ、お前、オレが最初にキスした時のこと覚えてるか?」
千秋は乱れた前髪をぐいとかきあげると、唐突に言った。
■■17
「最初の…デスか…?」
「そう、最初の」
「う……、えっと、……」
「お前、色気のない声出すし」
のだめはすっかり熱を帯びた頬に手を宛てて、記憶の糸を辿る。
「あの時は…オクレール先生に全然ダメって言われて…千秋先輩にも聴きたくないって言われて……」
「言ってねぇっつの」
「それで……されたようなされてないような……物質的には、理解できてたんですけど」
千秋は力が抜け、壁にゴンとよりかかると、腕をだらりと降ろして
ムンクの叫びのような表情で呆然と固まってしまった。
「せ…先輩……?」
「……もういい…………。」
がっくりとうなだれる千秋をよそに、のだめは、あわあわと首を振る。
「だ、だって、先輩も先輩デスよ!」
「オレが何……」
「だって、帰ってくるなり弾けって、それでダメだって」
「だから言ってないし…」
PR