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【2025/07/19 07:31 】 |
約束:10
灯台の、ほのかな灯りの中で、私は宴の気配を全身で聴いていた。
来る、来ない、来る、来ない。
幼い頃、夕霧と興じた花占いを思い出す。あの頃は良かった。何も思い惑う事などなかった。

懐かしく思い返していると、部屋の外で話し声がした。
「一夜の仮宿じゃ、頼りないなぁ」
柏木のお兄様だった。
「馬鹿言わないで。私は疲れた旅人なんだよ。長い旅をして、ようやく帰ってきたんだから。早く部屋に案内してくれないか。」
…来た…!
記憶にあるのより低かったが、聞き間違えようもない。夕霧の声だった。
声は、私の部屋の妻戸の前で止まる。
「ふふふ。知ってるよ。からかって悪かった。さあ、ここだよ。…ごゆっくりどうぞ。」
一人分の足音が遠ざかり、かちり、と妻戸が小さな音を立てる。
咄嗟に私は背中で妻戸を押さえつけてしまった。

「…雲居の雁!?」
「いや!来ないで!」
「なぜ怒っているの?私は…私は、今日の日を夢見て今まで」
「どうしてこんなに時間がかかったのよ!」
「それは、君にふさわしい男になってから…」
「違うわ。私が官位など気にしていないの、知っていたくせに。忍んで来てくれても良かったじゃない。あなたは、あなたの自尊心ばかり大切にして…!私の気持ちなんて、考えもしないで…!」
違う。違う。本当はこんな事、言いたいのではない。
しかし、今までの不安と、来てくれた嬉しさなどが涙と共に一度に溢れ出し、私は支離滅裂なまま夕霧に言葉をぶつけてしまった。

「…ごめん。」
「夕霧…。」
「ごめん。悪かった。待たせた事も、君の気持ちを考えてなかった事も。でも、私の気持ちが変わってないことだけは、信じて。…ここを開けて。」
私は、妻戸から離れた。ゆっくりと扉が開く。
泣き顔を見られたくなくて、私は几帳の陰に隠れようとしたが、夕霧の方が一足早かった。素早く妻戸の隙間から滑り込み、背中を捉えられる。
大きな、暖かい袖の中に、私は後ろからすっぽりと包み込まれた。
「捕まえた…」
胸が詰まって、言葉が出ない。
「長かった。何度も夢に見た。忘れられたらどんなに楽かと思ったけれど、それもできなかった。」
腕を緩め私の正面に立つと、夕霧は私の頬にそっと手をあて、顔を覗き込む。
「顔、よく見せて。…綺麗になったね。あの頃はふっくらしていて、可愛らしかったけれど。少し痩せた?」
「やつれたかもしれないわ。あなたの事で、たくさん気を揉んで、泣いたから…」
気恥ずかしくてまともに夕霧の顔を見られず、怒ったふりをして横を向くと、夕霧はくすくす笑った。
「ふくれると、昔どおりだ。」
「なんですって!」
「…やっとこちらを向いてくれたね。そうそう。あなたは、少しぷんぷんしているくらいがちょうどいい。生き生きとして、魅力的だよ。」
熱っぽく話す夕霧の瞳に捉えられ、もう目がそらせなくなる。



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