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【2025/07/19 08:28 】 |
約束:9
あれから、幾年かが過ぎた。
夕霧は、相変わらずまめに文をくれたけれど、やはり会うことはかなわなかった。
風の噂に、順調に昇進していることを知った。
病がちだった最愛のおばあさまが、とうとうはかなくなり、私たちは喪に服した。
夕霧の妹姫が、裳着のお式が済んだら東宮様のもとに入内するという話を聞いた。
中将に昇進していた兄の夕霧も、入内の支度で忙しいのだろう。文も、間遠になった。

そんなある日、女房たちの噂で、夕霧が中務の宮様の姫君との縁談を許されたと聞いた。
久しぶりの文は、私がもう心変わりしてしまったのではないかと嘆く内容の御歌だった。
なによ。心変わりしたのは、そっちじゃないの。
ふくれた私は、気持ちをそのまま返歌にして、送りつけてやった。
私も、待ち続けることに、少し疲れてきていた。
あてもなく、待ち続ける日々。
もうとっくに婿取りをしていてもいい年頃の娘が、いつまでも縁付かずにいることで、お父様が困っていらっしゃるのも知っていた。夕霧との噂はみんなが知っていることだったので、宮仕えにも出せず、かといって誰かに縁談を持ちかけることもできず、というわけなのだ。
私付きの女房の中にも、本当に姫様のことを想っていらっしゃるのなら、夜、忍んでいらしてもよさそうなものなのに、と、あからさまに言うものもいた。
私も、そう思っていた。
物語や草紙のように、私を盗みに来てくれてもいいのに。
『君にふさわしい男になったら迎えに行く』別れ際にそう言った夕霧だったが、すでに中将ならば、家格につり合わないことはないはずだ。
それなのに来てくれないのは、やはり心変わりしてしまったのか。それとも、意地になっているのか。

春も、もう終わりに近いある日。
我が家で、藤の宴が催されることになり、私の一番上の兄で夕霧の幼馴染でもある柏木のお兄様が、いつになくおしゃれをして出かけていった。
我が家からの正式な御使者として、夕霧を迎えに行ったという。
お父様が催す公の宴に、夕霧が賓客として招かれることは、今までになかった。
これは、どういう意味なのだろう。乳母や女房たちは、色めきだった。
「姫様。お支度を致しましょう。」
「なぜ?夕霧は、お父様のお客様よ。私の所にいらっしゃるわけではないわ。」
「もしも、ということがあるかもしれませんわ。」
「無いかもしれないわ。」
「んもう、姫様。もしも何かあってからでは、遅うございますのよ。」

もしも夕霧が来なかったら。傷つくのは私なのに。期待した分だけ失望も大きくなる。
気が進まないながらも、女房たちに急かされて、私は支度をした。
湯浴みをして、髪を洗う。
髪にも衣にも、とっておきの香をたきしめ、部屋を清らかに掃除し、鏡を磨き上げる。
ふと庭を見ると、宴もたけなわのようで、賑やかな熱気がここまで漂ってきた。
宴に侍っていたのであろう。若い女房たちが、部屋の外で噂話をしている。
「やっぱり夕霧様が、一番素敵ね!」
「あら、私は少将様が一番だと思うわ。」
「そうかしら。夕霧の中将様は、光る君といわれた大臣のお若い頃にそっくりなんですって。前にお見かけした時よりお背も高く逞しくなられてて、もう、私、お酒をお注ぎするときに倒れてしまうかと思ったわ!」
「いやぁね、そんなこと言って。あなたの背の君に言いつけちゃうわよ。」
「だめだめ!夕霧様は、ただの憧れですもの。あの人には黙っていて!」
そう。夕霧は、そんなに素敵になっていたのね。
最後に会った日の夕霧の面影がちらつき、噂話からの想像だけでも恋しさが募る。
女房たちは、支度を済ませると部屋に下がっていった。

…来てくれなかったら、どうしよう。

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【2011/08/16 03:24 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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