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夕霧の元服のお式は、ここ、三条のお邸ですることになった。
おばあさまがお式を御覧になりたいだろうから、という源氏の大臣のご配慮だそうだ。 お式の日、私は遠くから様子を伺っていた。夕霧が賜った位は六位だった。集まった方々はみな驚いていた。私も驚いた。大臣の子息は、たいていもっと上の位を賜るのが普通だからだ。私の兄たちも、夕霧よりは上の位で元服した。 式の合間に会いに来てくれた夕霧はあからさまにがっかりしていた。 「六位だなんて。これじゃ恥ずかしくて、君のこと伯父様にお願いできないよ」 聞くと、お父様の勧めで夕霧は大学寮で学ぶことになったのだという。その為には位など無い方がいいだろうし、数年はぱっとしなくても、学問をして、じっくり実力をつけてから御仕えに出るほうが良いというお父様のご判断なのだそうだ。 私は位など気にしていなかったし、添い伏しの姫の話が出なかったことにむしろほっとしていた。 夕霧は、学問が忙しいのか、滅多にお邸に来られなくなった。たまに来ても、元服した公達と同席はたしなみがありませんと、私は几帳の奥に押しやられてしまう。文だけはよくやり取りしたが、直接言葉を交わすことは、もはやできなかった。 ある日、お父様がおばあさまのご機嫌伺いにお見えになった。来られた時はご機嫌だったお父様が、なぜかお怒りの様子でお帰りになった。 その後、私はおばあさまのお部屋に呼ばれた。 「あなたと夕霧は、もう契りを交わしてしまったの?」 …知られていた。秘密だと思っていたのは、私たち二人だけだった。身体中の血の気が引いていく。手が震え、私はおばあさまにお返事することができなかった。 最後まで交わしたわけではないと言っても、きっと信じてはもらえないだろう。だいたい、お互い全裸で相手を探り合うところまではしてしまったのだ。最後までしたかどうかは、問題ではなかった。 何も言えず、涙をこぼす私に、おばあさまはやさしく言った。 「お父様がね、あなたを東宮様に差し上げるつもりだと仰っていたのだけれど、女房たちの噂話から、あなたと夕霧のことをお知りになってね。たいそうお怒りなのですよ。もう、ここには置いておけないと仰って。日を選んで、お迎えに来るそうです。私も、夕霧以上に素晴らしい婿君はおりませんと、お父様には申し上げたのだけれど、聞いてもらえなくて。ごめんなさいね。でもね、あなたももっと早くおばあちゃまに相談してくれればね…」 こうして私は、お父様のお邸に引き取られることになった。 夕霧が次に来たのは、私がお父様のお邸に移る日だった。 おばあさまから、理由を聞いたのだろう。部屋に入るなり、きつく抱きしめられた。 「行かないで…!内大臣様のお邸に移ったら、本当に会えなくなってしまう!」 そう言ってくれるのは嬉しかったが、私ももうお父様を困らせたくなかった。 「ごめんなさい。これ以上お父様に嫌われるのも、私、いやなの。あなたを待ってる。いつまでも待っているから、早くお迎えに来て…」 夕霧は何も言わなかった。無言で、腕に更に力をこめる。 「姫様。お迎えの御車が参りましたよ。」 部屋の外で、乳母の声がする。 「行かなくちゃ…」 「もう少し。もう、少しだけ…」 「乳母が来るわ。」 「構うもんか。」 「…姫様?」 乳母が部屋に入ってきた。几帳の陰で抱き合う私たちを見て、軽蔑したように言う。 「まあ。いくら大臣のご子息とはいえ、六位の浅葱ふぜいではね。こちらのお邸につり合いませんわ。」 理由があるとはいえ、位が低いことは夕霧の自尊心を深く傷つけていた。 乳母に侮辱され、身体を硬くしたが、夕霧は一言も言い返さなかった。 腕を解き、私の肩に手を掛け、乳母のほうに押し出しながら、かすれた声で囁く。 「君にふさわしい男になったら、迎えに来るから。」 PR |
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